- 腹式呼吸が上手にできない
- 腹式呼吸の正しいやり方を知りたい
- はっきりとした声を出せるようになりたい
オンライン話し方教室【ボイスプロデュース】代表講師の福永智樹です。
今回は、腹式呼吸で発声するために必要な正しいやり方、効果的なトレーニングについて解説します。
あなたは声の通りが悪かったり、大きな声がなかなかうまく出せなかったりすることはありませんか?
常に安定した声が出るようになれば、仕事でもプライベートでもコミュニケーションがよりスムーズにとれるようになります。
でもどうすればもっと良い声になれるのか、分かっている方というのはほとんどいないと思います。
実は良い声を出すには、正しい発声法が必要になります。
そして、正しい発声法に欠かせないのが正しい呼吸法です。
その呼吸法が「腹式呼吸」です。
腹式呼吸と聞くと歌手がやっていたり、吹奏楽やヨガなどで使う呼吸法というイメージがあるかもしれません。
しかし、実は話している時にも安定した息をを出せるようになれば、とても良い声になっていきます。
腹式呼吸はプロでも正しくできていない!
腹筋を鍛えると、良い声が出る・腹式呼吸が上手くなるという勘違いをしている人が多くいます。
しかも、歌手・アナウンサー・役者など、声を使うプロにまで。。。
そもそも本当に正しい腹式呼吸をマスターしている人は、プロでもあまりいません。
それは歌ったり話したりしている姿を見れば一目瞭然ですので、確かめてみましょう。
ブレス(息つぎ)の時に肩や胸が上がっていることに気がつくはずです。
その動きは、正しい腹式呼吸ができていない証拠になります。
このように息を吸った時に胸が上がるのは、腹式呼吸ではなく、「胸式呼吸」と呼びます。
胸式呼吸と腹式呼吸の違い
呼吸は呼吸筋を使います。
呼吸筋は20種類ほどあり、その中のどの部分を使うかによって、胸式呼吸になるのか腹式呼吸になるのかが決まります。
厳密に言えば腹筋、背筋、胸や首の筋肉も呼吸筋に入りますが、主に使うのは肋骨の間の「肋間筋」と肺の下側にある「横隔膜」です。
胸式呼吸は肋間筋を使う
試しに肋骨のところに両手をあて、そこを大きく膨らませながら息を吸ってみましょう。
そうすることで、胸が大きく上がるのが分かると思います。
※息を吐くともとの位置に戻っていきます。
このように肋間筋を広げてできた隙間に、肺も広がり息が入り、肋間筋をもとに戻すことで肺ももとに戻り息が出て行くこれが胸式呼吸の仕組みになります。
それでは、なぜ胸式呼吸は正しい発声に使えないのでしょうか?
実はこの呼吸法だと、息が一気に出てしまい、息がかった小さく弱い声にしかなりません。
だからと言って大きく強い声を出そうとすると、息を一定に出すために喉の周りの筋肉を使って喉を締め付けなければいけなくなります。
そうなるとキンキンと硬い声になり、声帯を痛めやすくなってしまいます。
良い声を出すには、喉の周りの筋肉をリラックスさせ、喉の奥を広げる必要があります。
そうすることで、声帯振動でできた音が顔の中心の鼻腔に共鳴し、とても良い声になります。
胸式呼吸だと、それが不可能な状態になるため、発声には向いていないのです。
腹式呼吸は横隔膜を使う
腹式呼吸は横隔膜を使います。
横隔膜は筋肉と腱でできている薄い膜です。
ちょうど鳩尾(みぞおち)くらいの位置にあります。
この横隔膜を下げる(正確には収縮させる)ことで、肺が縦に広がって息が入ります。
お腹が膨らむのは横隔膜を下げたことにより、内臓が押し出されるからです。
※背中には背骨があるため、お腹の前と横が広がります。
そして息を吐くことで、横隔膜がもとの位置に戻り、お腹がへこんでいきます。
この動きのおかげで息を一定に出すことができ、声帯にバランスの良い量と強さの息が当たるようになり、余計な負担なく声が出ます。
※喉をリラックスさせた状態(喉をあけた状態に)になるため、鼻腔に音が共鳴した良い声を出すことができます。
ちなみにボイストレーニングの中では、一定に息を吐くこと力のことを「支え」と言います。
お腹から声を出すという感覚は、この「支え」のことを指します。
胸式呼吸ではこの「支え」がうまくできず、腹式呼吸ではできる。これが一番大きな違いです。
それぞれの特徴 | 胸式呼吸 | 腹式呼吸 |
---|---|---|
使う筋肉 | 肋間筋 | 横隔膜 |
発声への影響 | 喉に力が入る | 喉がリラックス |
吐く息のコントロール | 難しい | 簡単 |
腹式呼吸に腹筋トレーニングは逆効果
もしもあなたが、腹式呼吸はお腹を使うから腹筋を鍛えたらいいに違いないという考えを少しでも持っていたら、すぐに捨ててください。
腹筋も呼吸筋のうちの一つなので、全く使わないわけではありません。
しかし、上記で述べたように、腹式呼吸は横隔膜の動きの「支え」を活用しますので、腹筋に力を入れる必要はありません。
むしろ腹筋に力を入れすぎると、支えができず逆効果になってします。
※いくら腹筋を鍛えたとしても、支えはできるようになりませんし、強化もできません。
たとえば腹筋を鍛える時に、繰り返し起き上がるトレーニングがあります。
その時ほとんどの時間が呼吸が止まっているはずです。
腹筋に余計な力が入ってしまうと、喉の周りの筋肉まで硬直してしまうことになります。
そのような状態で声を出しても、全く良い声になりません。
間違った腹式呼吸のトレーニングが多い
ボーカルスクール等でも、「腹筋を鍛えよう!」という間違った教え方をしてしまっているボイストレーナーは多いので、注意しましょう。
たとえば腹筋運動をしながら(起き上がりながら)声を出すなど。。
これは絶対にやってはいけません。
声帯に負担がかかってしまいますし、声を出す時に身体に余計な力が入るという最悪のクセがついてしまいます。
ちなみに長時間歌ったり話したりして、声がかれたり喉が痛くなるのは、腹式呼吸をマスターできていない、正しいやり方になっていないという証拠です。
正しい腹式呼吸をマスターして声を出せていれば、喉がかれるのは風邪をひいた時くらいになります。
正しい腹式呼吸のやり方
腹式呼吸は用途や教える人によって、やり方が若干異なります。
今回はあくまでも、良い発声を目的とした腹式呼吸のやり方についてお伝えします。
姿勢を真っ直ぐに保つ
猫背になってしまうと「支え」をうまく使えません。
どうしても姿勢が悪くなる場合は、寝転んでからやりましょう。
息を吐いてお腹をへこませる
腹式呼吸はお腹ががゆっくりとへこんでいくように、息を長く一定に吐くことから始めてみましょう。
息の音は浮き輪やボールの空気が抜けるような「スー」 という音にします。
最初からお腹はへこむのではなく、後半からへこむようにしましょう。20秒間息を吐くとしたら、10秒を越えてからへこむようにします。これが支えができている状態です。
楽に息を吸う
息を出しきったら、へこんだお腹の力をさっと抜くだけで鼻や口から勝手に息が入っています。
この息を吸う時に「吸う意識」が強すぎると、胸が上がってしまい、胸式呼吸の動きになってしまいますので、注意しましょう 。
息は「吸う」のではなく、力を抜くと「勝手に入ってくる」というイメージがとても重要になってきます。
※鼻だけで吸う方が息が入りやすいこともありますが、普段話していて息を吸う時は口と鼻の両方を使います。
鼻だけで吸ってしまうと、とても不自然になってしまいますので、鏡を見ながら比べてみてください。
声楽や楽器(吹奏楽など)の場合は、話す時よりも息を大量に出し入れしますので、「息を吸う意識」が必要になるかもしれません。
腹式呼吸には、リラックスが一番
慣れるまでは、どうしても身体に余計な力が入ってしまうものです。
しかし、身体に余計な力が入ると正しい腹式呼吸ができません。コツをつかめるまでは、あおむけに横になってから練習しましょう。
そうすることで余計な力も入りにくくなりますし、自然に腹式呼吸ができるようになります。
というのも、寝ている間やリラックスしている時は、どんな人も腹式呼吸になっていると言われています。
声を出さず、ただ酸素を取り入れるだけの呼吸の場合は、誰でも腹式呼吸になっているということです。
しかし、声を出すなど、普段よりも多く息を使う時には、なかなか上手くできないということなんですね。
効果的な腹式呼吸のトレーニング方法
◎スタッカートブレス
息を勢い良く連続で吐く練習です。
「フッ!フッ!フッ!フッ!」と毎回全部息を出し切りましょう。
その時にお腹の動きもしっかり連動させてください。
※時計の秒針(テンポ60)に合わせてゆっくり10~20回行いましょう。慣れてきたら倍の速さでもやってみましょう。
※息を吐くためではなく、息を楽に吸うための練習です。息を「吸う感覚」ではなく、「入ってくる感覚」をつけましょう。
※この時は「支え」は一切入りません。
◎ロングブレス
その名の通り、長く息を吐く練習です。
始めは10秒くらいでも構いません。
「スー」という一定の吐き方で、3~5回繰り返し練習してください。
慣れてきたら、30秒くらいできるように頑張りましょう!
※支えの強化が目的です。
※あおむけになるなど、リラックスした状態で行いましょう。
◎ロングブレスの応用編
呼吸には息を吸う、止める、吐く3つの動作があります。
それらを時計の秒針を見ながら、それぞれ同じ秒数で繰り返してみましょう。
①息を全て吐き切り、お腹をへこませます
②ストローを加えた口の形で一定に10秒間息を吸う(お腹をゆっくり膨らませる)
③息を10秒間止める(喉などに力を入れず、おへそのあたりをつっぱるイメージ)
※止めることで力が入ってしまう人は、止めている間も小さく息を吸い続けてみましょう
④スーの音で一定に10秒間吐く(最初からすぐにお腹をへこませない)
※10秒が楽にできるようになったら、15秒、20秒と増やしていきましょう。
身体に余計な力が入ると酸欠のような状態になってしまうこともあるので、無理はしないでください。
◎支えを入れて声を出す
試しに「うぉーい」と大きめの声で伸ばしていきましょう。
この時のお腹の動きは上記のロングブレスと同じようになります。
そうすることで、いつもよりも声が出しやすいはずです。
※「おーい」ではなく、「う」の口の形から「うぉーい」にすることで出しやすくなります。
※すぐにお腹がへこむなど、コツをつかめない場合は、少し後ろに背をそりながらやってみましょう。こうすることでお腹がすぐにへこむことはなくなり、支えが自然に入り安定します。
どのトレーニングも身体に余計な力を入れないことを意識しながら行いましょう!
声ができるまでの流れ
最後に、正しい発声法で良い声を出すまでの流れをシンプルに説明します。
①安定した息を声帯に当てる(支え)
②声帯が振動して音ができる
③咽頭・口腔・鼻腔などの共鳴腔に音が伝わる
④口の形や舌の動きを使って発音
⑤良い声のできあがり!
◎正しい発声法を妨げる要素◎
- 胸式呼吸→①~③がうまくいきません。
- 腹筋などに余計な力が入る→喉が締まり③がうまくいきません。
- 滑舌が悪い→④がうまくいきません。
これら3つの要素をなくしていくことで、誰でも正しい発声法を身に付けることができます。
〜より詳しい発声・滑舌についての参考ページ〜
まとめ
腹式呼吸はすぐにできるものではなく、毎日の積み重ねが大変重要です。
1日30分のトレーニングを週1回やるよりも、1日3分のトレーニングを毎日やって習慣化させる方が上達の近道になります。
負担になりすぎないよう、リラックスして気長に取り組んでいきましょう。
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